ギリシャの町のあちこちで数百万匹もの飢えた野良猫が毎日生き延びようと奮闘していました。パウダーはその中でFIVと皮膚がんに侵されとても衰弱した1匹でした。
パウダーは弱く病魔に侵された身体にも拘わらず、信じられないほど愛情深く人間が大好きで人間といることが幸せな猫でした。
施設で過ごす彼は探検したり走り回ったりするためではなく、人間の傍に居たくて柵の外へ出してくれと懇願しました。
実際、私の中のパウダーは人間と変わらず、彼は知恵と深い感情と社会的な知性を感じさせました。
パウダーの目はまるで魂の奥まで見ているかのように私たちを見詰めました。私はパウダーに動物にはめったに見られない自覚を感じていました。

パウダーに遅れること数週間後の2月1日、ふたりのボランティアがアテネへ出向いて保護してきたのがパウダーと同じFIVに感染したアイアンでした。
アイアンは右目の光を失い、後ろ足の1本と尾が砕け、弱った免疫システムのために全身に問題を抱えた状態で衰弱していました。
パウダーの隣の柵に暮らし始めたアイアンは数日で野生の猫から注目を欲しがる小さな男の子に変わりました。
そして、アイアンとパウダーは寄り添うためにお互いの柵から出たいと鳴き始め、柵を出るとすべての行動を共にするようになりました。

パウダーもアイアンも彼らの健康上の理由からいかなる手術も受けることができません。彼らはお互いに避妊治療を受けていないオスですが、私たちが驚くほど短い間に結び付き2匹を離しておく意味がありませんでした。
2週間後、私たちは2匹のために部屋を用意しアイアンのお気に入りの窓辺にベッドを置きました。
パウダーは華奢なアイアンを抱きしめ、まるで彼を守っているように見えました。
身体の小さなアイアンがパウダーの隣にいると、2匹がオスだと知らない人が見たらきっと弱々しい子猫を看病する母猫に見えたでしょう。

抗生物質と獣医師による治療と療養食を続けたアイアンは驚くほどの回復をみせました。そして、2か月後にはキャットツリーの最上段から私たちを見下ろすほど元気を取り戻していました。そんなアイアンに私たちボランティアは永遠の家を見つけることを夢見るようになりました。

一方パウダーは数週間入院しなければならないほど状態がよくありませんでした。私たちが回復に期待を持てない状態で入院したパウダーでしたが、信じられない回復をみせてアイアンのもとへ帰って来ました。

しかしこの頃、回復へ向かっていたアイアンがみるみる衰えはじめ、整っていた被毛が抜け落ち以前よりもなお体が小さくなっていきました。彼は心を閉ざし、ただ、あの窓辺で日差しを浴びながら窓の外を見ていました。そして、4月26日の朝、彼は日差しの中で2度と目を覚ましませんでした。

ひとり残されたパウダーは私が見た中で最も孤独な存在に見えました。
私たちはパウダーとアイアンが一緒に過ごした窓辺を2か月間パウダーのためにそのままにしました。

パウダーには家族に迎えたいというドイツに暮らす獣医師が待っていてくれました。
パウダーは人間と一緒にいるとき一番幸せな猫でした。しかし、彼は少しも回復に向かっていなければ、少しでも回復を待って・・・という考えが危険な状態でした。
獣医師は回復したパウダーを待っているのではなく、現状のパウダーを迎えたいと言います。
私たちは新しい家族のもとで本当の家族に愛情を注がれるパウダーに賭けることにしました。
2017年7月5日、パウダーは皮膚癌で耳を失くしたイエティと一緒にSCARSを旅立って行きました。

アイアンを亡くし、自分の人生を失いかけていたパウダーは永遠の家で愛情を注がれて暮らしました。
本来ならそこにアイアンが加わるはずでしたが、運命はそうではありませんでした。

そして、ドイツに渡って1年後の2018年6月18日、パウダーは家族に囲まれてアイアンのもとへ旅立って行きました。

ドイツへ発つ以前のパウダーはいつ急変してもおかしくない状態にあり、もし、家族の愛情がなければ私たちはもっと早かっただろうと思っています。パウダーはあらゆる瞬間を精一杯に生き、私たちにたくさんのものを残してくれました。

パウダーの知らせが届いたとき、私たちは改めてパウダーとアイアンが残してくれた大切なものを思い起こしました。

私たちはアイアンがすでに永遠の家にいることに気付くことができませんでした。
アイアンは最後までその無垢な魂の尊厳を守り通し、自らが選んだ永遠の家で旅立って行きました。

パウダーが命を懸けて守ろうとしていたアイアンを亡くしたとき、私たちの衝撃は言葉にできないほど大きく、その影響は今も、これからも変わりません。私たちボランティアは何が重要なのか、何をすべきかを全て考え直したかもしれません。

パウダーとアイアンが、今寄り添っていると思いたいです。