立ち止まった私は肩越しに子猫を見つけました。私を追ってゴツゴツした坂道を必死に上ってきていました。
近くの町から20kmほどの殆ど人気のない場所に小さな子猫が1匹でいるのは不自然だと思いました。きっと誰かに捨てられたに違いありません。私は持っていたパテの缶詰を子猫にあげました。
どうしたものかと思いましたが、子猫を置いていくことができませんでした。
子猫の居場所が必要だったのでデジタル機器を少し片付けて自転車の前にバッグを取り付けました。自転車の乗り心地を子猫は気に入ったようでした。

翌日、動物病院を見つけて診察を受けると子猫は生後7週のメスでした。マイクロチップは見つからず、お腹の虫の治療を受け、ワクチンを打ってもらいました。数日後にマイクロチップを装着する予約を入れました。
私は大好きな「ライオン・キング」から子猫にナラと名前を付けました。

通りがかりの観光客にナラは注目を浴びるようになりました。
私は1日7時間自転車を走らせ、殆どの夜をテントで越してきました。
最初の夜からナラはテントの床を跳ねまわって私のすることに興味津々でした。
どうやらナラは家ではない旅の暮らしを気に入ってくれたようでした。私はナラをこのまま旅に連れて行くことを決めました。

半月ほど経ったとき、アルバニアを走っていいた私とナラは暴風雨に見舞われました。ひどい向かい風で私は自転車を押して進まなければなりませんでした。私ひとりならそれでもかまわないのですが、このときびしょ濡れになったナラは胸の感染症にかかってしまいました。

獣医師に治療を受けているナラを見ていたとき、もしナラを失うことになったら…私は言葉では言い表せない恐怖を感じました。短い時間の間にナラは私にとってすでになくてはならない存在になっていました。
私はナラとの旅の在り方を改めて考えました。
私たちはナラの感染症が治り、天候が回復するのを待つために3週間をホステルで過ごしました。

再び走り始めた私たちはギリシャに入りました。
警官に呼び止められて自転車を停めると彼は私たちがどこから来たのかに興味を持ち、ありがたいことに大雨が近付いて来ていることを教えてくれました。
警官のアドバイスに従って隣町でテントを設営していたら、5分と経たないうちにテントの入口にお腹を空かせた野良猫たちが集まってきました。
私はナラのために2kgのキャットフードを持ち歩いていますから、6匹分のごちそうを十分に賄えました。

自転車の前でナラは殆どの時間を日光浴で過ごし、自分の尻尾で遊んでいます。
私はときどき、ナラを不思議に思う瞬間があります。
猫は家につくと言いますが、ナラの今の生活は普通の猫のライフスタイルとはかけ離れています。
毎晩別の場所に寝泊まりする暮らしを愛しているナラが不思議でたまりません。

ギリシャではサントリーニ島でカヤックに挑戦しました。猫は水を嫌うと思っていたのですが、ナラはカヤックの前方に座って時には水を跳ねて遊びました。私はナラのためにライフジャケットを購入しました。ナラは怖がるどころか水の中に獲物を見つけると捕まえようとジャンプしそうになったのです。
ナラは私と一緒なら何も怖がることはありません。

私たちたちはこれからオーストラリアを目指し、そこからアルゼンチンへ渡ってカナダまで北上する計画を持っています。
私は今後の旅のためにナラに予防接種と避妊治療を受けてもらい彼女のパスポートを取得しました。
私たちの旅はナラと出会う前とそれほど変わっていません。変わったことといえばトイレ休憩が大幅に増えたことと、天候が悪いときはナラと一緒にゆっくりと過ごすことにしたことくらいでしょうか。
私の旅の優先順位は完全にナラにとって代わりました。私たちの旅はナラの旅だと思うようになりました。

以前の私は世界をただ横断したいと思っていました。
今の私は時間をあまり気にしなくなりました。ゆっくりと旅を楽しもうと思うようになりました。
私はナラがただ一緒にいてくれることを素晴らしいと思っています。
私たちの旅を応援してくれているたくさんの人たちが、ナラと私の出会いに共感しナラの元気な姿を喜んでくれています。これからも私はナラとの旅の様子を発信していきます。

今日はこれくらいにしましょう。そろそろナラが寝る時間です。