子猫に危機感を覚えたクリスは子猫をすぐに温熱パッドの上に乗せて温め始めました。
すると約10分後、子猫はゆっくりと意識を取り戻しました。

連絡を受けた私は路上で緊急栄養補給ができるように思いつく限りの必需品をそろえました。
救助仲間のソニアに同行してもらいロサンゼルスに向かって車を走らせました。

クリスから受け取った子猫を温熱パッドの上に置いて1滴ずつ栄養価の高いミルクを与えました。
新生児の子猫は自分で体温調節ができません。
何も見ることができず、何も聞こえません。
生まれたての子猫にできるのは温かい母猫のお腹に向かって動くことだけなのです。
母猫のいない生まれたての子猫には母猫に代わる人間のお世話が必要です。

子猫の身体は埃と汚れに覆われていました。
私はおしりふきできれいにするとフワフワの毛布を敷いた保育器に子猫を入れました。
自宅に着いた最初の日は一晩中1時間半ごとにミルクを与えました。
私は子猫にロザリータと名前を付けました。

最初の計量でロザリータの体重は82gでしたが、彼女は一晩で4g落としてしまいました。
私はロザリータにチューブを使ってミルクを与え、希釈したミルクを2時間ごとに切り替えて与え続けました。
体重を落としてしまったロザリータでしたが、その後は着実にわずかずつ体重を増やし始めました。
ロザリータは自力で飲みこむことができるようになり、チューブのミルクを卒業することができました。
私たちはこのとき、ロザリータがひとつの節目を迎えたと感じ、彼女が必ず生き延びると確信することができました。

生後10日を迎えたロザリータは82gだった体重を2倍まで増やしていました。
そしてその数日後彼女は初めて目を開き、またひとつ節目を迎えることができました。
生後2週間を迎えたロザリータはキスしたくなるような丸いお腹をしていて、ピンク色の小さな肉球といつも笑ったような表情が私たちを和ませてくれました。

生後3週に入るとロザリータは温かくて居心地のいい保育器の外を探検し始め、好奇心旺盛で冒険心のある一面を見せ始めました。
ロザリータは確かに平均に比べて少し成長が遅れてはいますが、大丈夫、成長を急ぐことはありません。
そしてロザリータはいよいよ保育器を卒業し、生活の場を快適な保育室に移しました。
ロザリータはその常に笑顔を湛えたような表情が誰からも愛されていました。
私のパートナー、アンドリューはロザリータと一緒に保育室の遊び場で長い時間を過ごすのが楽しくて仕方がないようでした。
『ロザリータはこれ以上ないほどかわいい・・・』アンドリューのシャツの中に抱かれたロザリータはそこでお昼寝をするのが大好きでした。

数週間前から少し気になっていたことがありました。
ロザリータの頭が右に傾いていることがよくありました。
ロザリータが生後1か月を迎えた頃、それは彼女が成長するにつれて病気の可能性を疑わせるようになりました。
専門病院で神経外科医の診察を受けましたが、予想していたとおりロザリータのように小さな猫ではMRI検査で診断をするのは難しく、彼女が1kgに届くまで待たなければなりませんでした。

ロザリータが生後7週を迎えた1月のはじめ、神経学の分野で2度の診察を受けました。
ロザリータの目は基本的に機能しているのですが、左目からの情報が右の脳で処理することができません。
皮質盲(後頭葉の損傷によって、目で見えているものを認識できなくなる異常)を片側に持っていると獣医師は考えています。
獣医師と相談した結果、脳の構造上ロザリータが少し傾いたり、視覚障害を持っている可能性は高くてもそれが彼女の日常生活に支障をきたすものではなく、ロザリータが傷つくものではないことから全身麻酔の必要なMRI検査までは行わないことにしました。
ロザリータの世界観は少し違うかもしれませんが、それでも、私たちにとってロザリータは完璧な子猫であることに違いはありません。

それから10日ほど経ったとき、生後8週をむかえたロザリータに理想的な永遠の家が見つかりました。
ロザリータの新しいパパは、特別なお世話が必要な猫を家族に向かえてきた大きな心と思いやりを持った人です。
新しい家族と大きな猫たちはロザリータの到着を心から歓迎しました。

2か月前、通りで見つかったへその緒の付いた汚れた子猫は苦難を乗り越えて理想の家族のもとへ旅立って行きました。
私はロザリータの旅立ちの日に少しほろ苦い感情と、感動とワクワクする気持ちでいっぱいになりました。

数日前、ロザリータのパパからあの笑顔が輝きを増して届けられました。

『ロザリータと同じようにシェルターに到着した母猫のいない生まれたての子猫は、養育してくれる里親が居ない限りその日が終わる前に安楽死させられてしまいます。
生まれたての子猫は母猫がいないと生き延びることができません。
外で小さな子猫を見つけたら、母猫を見つけるためにできることは何でもしてください。』