チェスターは何者かに顎を蹴られて骨折し、いたるところにケガを負った状態で保護されていました。
痩せて傷だらけのチェスターは恐ろしい目にあったにも拘らずシェルターのスタッフ達にお世話をしてもらうと大きく喉を鳴らしていたそうです。
シェルターで診察を受ける際、チェスターがあまりに大きく喉を鳴らすので鼓動を聞き取るのが難しいと獣医師が苦笑したほどでした。
傷ついても前向きで大らかなチェスターは周囲を明るくしていました。

レン・レスキューで暮らし始めたチェスターは幸いにもひとりで食べることができました。
しかし、完全に歪んでしまったチェスターの顎は手術を受けるしかない状態でした。
チェスターは驚くほど明るく、まるで顎の大けがを全く気にしていないように見えました。
明るいチェスターはすぐに周囲の人たちの心を奪い、施設のSNSに彼の記事が投稿されるとすぐに3件の問い合わせがあったほどでした。
そんなチェスターでしたが、どうやらほかの猫や動物はあまり好きではなく人間に注目を集める方が好きなようでした。

チェスターの手術の準備が進められている9月のはじめのことでした。
施設に1匹の子猫について助けを求めるメールが届きました。
子猫を発見した女性はこう綴っていました。
『子猫がケガをしています。右の耳の先端が無く、右の前脚の2本の指がなくなっています。』
私たちはすぐに子猫を引き取り、集中治療室で治療を始めました。
子猫は女性が伝えてきたケガだけでなく、小さなしっぽの先も欠けてしまっていました。
生後約2週間の子猫にいったい何が起きたのか誰にもわかりません。
ただ、子猫は人間をとても怖がっていました。

子猫はビッティーと名付けられました。
ビッティーが失った耳や尾、足の指は元に戻すことはできません。
彼女は感染症を防ぐための抗生物質が投与されました。
その数日後、無事に顎の手術を終えたチェスターが施設に戻ってきました。
チェスターの手術は壊疽した組織が取り除かれ、顎を固定するため4本の歯が抜かれワイヤーが装着されていました。
鎮痛剤を投与されたチェスターは気分がよく、周囲の人を相手に喉を鳴らしていました。
チェスターは施設の養育ボランティア、メルがお世話をすることになりました。

メルの自宅には療養中のビッティーが暮らしていました。
メルは夫と一緒に養育ボランティアをしていて、夫妻は辛い経験をしたビッティーに愛情を注いでくれました。
しかし、ビッティーは人間への恐怖を完全に無くすことはできませんでした。
愛情深く自然体のチェスターと物静かで未だ恐れを抱えたビッティーは性格がまるで正反対でした。
ところが、先に近付き始めたのは人間にも猫にもあまり興味を持たなかったビッティーの方でした。
そして、あまり猫が好きではなかったチェスターは自然体のまま、自分より小さな傷ついたビッティーを受け入れたのです。
2匹はお互いに近付き合い、一緒のベッドで寛ぐようになりました。

1週間後、足のケガから感染症になったビッティーは高熱を出す日もあり食欲を無くしてしまいました。
ビッティーは無気力になり、頭をあげることができなくなってしまったのです。
動物病院で数日を過ごし、回復したビッティーがメルの自宅に戻るとチェスターを見るなり彼のところへ走って行ったのです。
チェスターはビッティーの帰宅を歓迎して早速彼女を舐め始めました。
その日、ビッティーは大好きなチェスターに抱かれて眠りました。

その後、チェスターは残っていた腰のケガの治療を行い、メルの自宅療養のためにおとなしく過ごさなければなりませんでした。
少々退屈な日々を過ごすチェスターのためにビッティーはかいがいしく働いていました。
ビッティーはチェスターの顔の前におもちゃを運び、チェスターの木を紛らわせようとしました。
積極的に何かをしようとするビッティーは大好きなチェスターのおかげで見違えるほど成長していたのです。

それぞれに私たちが想像もできないほどの恐怖を体験し傷ついた2匹が出会い、希望を見失っていたビッティーは救われました。
チェスターとの出会いがなければビッティーの恐怖は未だに続いていたかもしれません。
傷ついたチェスターだからこそビッティーを救えたと言えるでしょう。
チェスターは毎日ビッティーを抱きしめ、身繕いをしています。
彼もまたビッティーに必要とされることでより豊かな日々を送っているはずです。
彼らの絆はこれからもずっと変わることはないでしょう。
私たちは2匹が一緒に幸せになることを心から願っています。