保護施設や専用のシェルターで治療を受けた猫たちはやがて人間との暮らしに慣れ、1年の間に殆どが新しい家族や里親のもとへ引き取られていきました。
しかし、アンジーはその段階まで未だ至っていません。

1年前のあの日、アンジーをキャリーケースに入れるのにかなり時間がかかりました。
生きる意欲を無くし簡単に捕まる猫がたくさんいる中で、アンジーは暗い物陰に入り込み、近付こうとする人間に唸り声をあげて猛烈に威嚇しました。
アンジーは人間が怖くてたまらなかったのです。

栄養失調に陥っていたアンジーは専用のシェルターで治療とリハビリを受けることになりました。
アンジーの一番の問題は極端に人間を怖がっていることでした。
彼女は人間が近付くと物陰に身を隠し、近付こうとすると身を縮めて必死に威嚇しました。
それでも撫でようとすると、唾を吐き、爪を立てました。
そして触れられると排尿してしまいました。
私たちはアンジーに安全な場所にいると感じてもらうことができませんでした

アンジーの人間への恐怖の原因を探る私たちはあるとき気付きました。
アンジーは自分を醜いと感じ、醜い自分が愛されるはずがないと思っている・・・
それはアンジーが抱える問題の根本でした。
アンジーは醜くなどありません。
あの想像を絶するアパートの暮らしはアンジーの心に私たちが想像した以上の深く大きな傷をつけてしまっていました。
そして、アンジーを見守る人たちはみんなが彼女を愛していました。
私たちはアンジーを『アンジー・ミミ(美美)』と呼ぶようになりました。

保護から1年が経過しようとする頃、猫たちの大半が引き取られていったとき、専用のシェルターは閉鎖することになりました。
しかしアンジーは引き取り手を探せる状態ではありませんでした。
私は彼女を自宅に引き取ってお世話を続けることにしました。
私はアンジーが抱える恐怖をいつか完全に取り除くことができると信じていました。

一緒に暮らし始めたアンジーを毎日観察していて分かったことがありました。
ビデオを回してみると、部屋の中を探検したり、用意したおもちゃで遊ぶアンジーを見ることができたのです。
彼女の恐怖は無くなりつつあったのです。
しかし誰かが部屋に入ると、アンジーは自分のケージに戻り人が近付こうとすると相変わらず威嚇しました。

アンジーの様子に私はがっかりすることはありませんでした。
時間と忍耐が必要なだけだと思っていたからです。

そしてそれは現実になりました。
そのとき、私が手を伸ばしアンジーに触れると彼女は動きませんでした。
素晴らしい瞬間でした。
私は嬉しくて胸が張り裂けそうでした。

アンジーは少しずつ私に触れられることに慣れてきています。
私が傍に座るとニャンと鳴きます。
アンジーの顔に触れると一瞬ひるむこともありますが、すぐに元に戻りその場から逃げることはありません。
アンジーはお腹を擦られるのが大好きです。
横になると私にお腹を擦るように催促するようになりました。

アンジーには時折蘇える恐怖のために隠れる場所がまだ必要です。アンジーにはまだリハビリの時間が必要なのです。
私はアンジーに必要な時間を一緒に過していく予定です。
私はアンジーのために彼女を理解し愛してくれる家族を見つけたいと思っています。
その日はそう遠くないと思っています。