駐車場へ入っていったとき、白い子猫が居ました。
子猫は人の気配に車の下へ逃げて行きました。
子猫の様子に違和感をもった私は、車の下を覗き込みました。
すると、血まみれの頭から左耳がかろうじてぶら下がっていたのです。
そのとき子猫の腫れた左目がグリーン色に輝きました。

ボーイフレンドと水と食べ物を持ってきましたが、子猫は出てきてくれません。
隣人の獣医看護師が協力してくれ、何とか子猫を車の下から出すことができました。
私たちは子猫を抱いて動物病院へ走りました。

子猫は生後6か月のメスでした。
予想はしていましたが、やはり子猫の左耳は諦めるしかありませんでした。
治療を受けた子猫はそのまま入院することになりました。
獣医師は私たちに手術の結果やそのあとの子猫のお世話に関心があるかと尋ねました。
私たちは勿論『YES』とこたえました。

私とボーイフレンドは子猫にヴェスパーと名前を付け、家族に迎えました。
退院したヴェスパーは耳の傷が順調に回復し始めていました。
ところが退院5日目に食欲を無くし、遊ばなくなってしまいました。
何かがおかしい、そう感じた私たちは再び動物病院へヴェスパーを連れて行き、詳しく検査してもらいました。
ヴェスパーはお腹の寄生虫が見つかり3日間入院して治療を受けました。

帰宅したヴェスパーは今度こそ元気になると思っていたのですが、すぐに異変が現れました。
頭が震えたり、立ち上がるとふらついたりするのです。

そして、動物病院から血液検査の結果、ネコ白血病ウィルス感染症(FeLV)に陽性反応だと知らせが入ったのです。
FeLVは猫の免疫力を著しく低下させる恐ろしい病気です。
ヴェスパーの免疫システムが病気を撃退する可能性はありますが、残念ながら、ウィルスに感染した子猫の多くは2~3年以内に命を落とすと言われています。

ヴェスパーは私たちと出会わなければきっと1か月前に命を落としていたでしょう。
だけど私たちと出会いました。
私たちにとってヴェスパーとの何気ない毎日が神様からの贈り物だと思いました。

ヴェスパーの耳は順調に傷口が癒え、被毛が生えそろっていきました。
しかしふらつきはその後も続き、おさまることはありませんでした。
歩くとよく転んでしまいます。
でも彼女は立ち上がり、起きると元気に歩き出します。

私たちには彼女自身が病気のことを知っているようには見えませんでした。
ヴェスパーはほかの子猫と同じように遊んだり、跳ねたり、高いところに上ったりして遊びました。
ヴェスパーはいつも楽しそうに私たちの後を付いてまわりました。

毎朝、私が目覚めるとヴェスパーが私の顔を覗き込んでいたり、遊んでほしいと足の指を咬んでいたりしました。
私はその瞬間をいつも感謝しました。

自宅で仕事のためにパソコンに向かうとヴェスパーは私の傍に寄り添って私がすることをじっと観察していました。
私が洗濯していると、ヴェスパーがやって来て足元に座り、私に向かっておしゃべりを始めました。
ヴェスパーはその時間が大好きなようでした。

ヴェスパーと暮らし始めて4か月、彼女は1歳を迎えました。
ヴェスパーは好奇心が強く、遊びが大好きなレディに成長しています。
彼女はいつも私たちの傍にいて、私たちと同じことをしようとしました。

ヴェスパーはとても強く、自分の状況を把握しています。
ヴェスパーは何度苦境に立っても決して不満に思うことはありませんでした。
私はヴェスパーに無条件の愛と忍耐を教えられた気がします。

ヴェスパーがどうして片耳を失ってしまうことになったのか私たちにはわかりません。
いつか病気がヴェスパーに牙をむくかもしれません。

私たちにできることは、ヴェスパーと過ごす時間に感謝し、与えられた時間は彼女を愛するために使う、それだけです。
私たちの周りにはヴェスパーを応援してくれるたくさんの人がいます。
私たちは温かい励ましの言葉でずっと温められています。
ヴェスパーもきっと、彼女を見守るたくさんの人の想いに温められています。