猫の名前はグレースと言いました。
グレースはパートナーのオス猫と2匹の小さな子猫と一緒に地元のシェルターに保護されていました
普通なら家族は一緒に引き取り手を探すものですが、グレースの小さな家族は野良猫だったせいか別々にされ、間もなく彼女のパートナーと子猫の1匹は引き取られていきました。
グレースと子猫はペットショップに引き取られ、2匹は店の中でちょっと内気だけど親しみやすいと言われていたそうです。
ところが、1か月ほど前に子猫だけが引き取られていったとき、グレースはキャットツリーを上り小さな箱に入ったきり出てこないそうです。
グレースは近付く人間を猛烈に威嚇し、人目のある時は一歩も動かなくなってしまったそうです。
お店の防犯カメラには数日おきにトイレを使い、ほんの少しの食事を摂って再び箱に戻るグレースの姿が映っていたそうです。

店のスタッフはキャットツリーを解体してグレースに出てもらうつもりだと言いました。
私はグレースをそこに置いておくわけにはいかないと思いました。

翌日私とパティとアレックスの3人でペットショップへ行き、何とかグレースを箱から出すことができました。
キャリーケースにグレースを入れて車に乗せたとき攻撃的だった彼女は少し落ち着き、意外にもすぐに横になり丸くなってリラックスしたのです。
私たちは彼女を箱から出したことが間違っていないと確信しました。

自宅に着くと、グレースは警戒して少し威嚇しましたが、その後は攻撃的な態度をとることはありませんでした。
グレースは用意していた彼女の部屋でひとりになるとトイレを使い、普通に食べ始めましたが、私たちの前では全く動こうとせず、全てに興味を示しませんでした。
強いトラウマを抱え、完全に心を閉ざしてしまったグレースは彼女の顔の前で猫が喜ぶおもちゃを振っても何の反応も見せなかったのです。
私たちはグレースの心の傷が癒されるまで多くの時間が必要だと分かっていました。

私たちの前で動かないグレースが身づくろいをしているのかはっきりと知ることはできませんでした。
私は歯ブラシを使って毛繕いを教えてみようと思い、試してみました。
一緒に暮らし始めてひと月が過ぎようとする頃、グレースは初めて、爪切りとブラッシングを経験しました。
幸いグレースはとてもおとなしく、嫌がることはありませんでした。
ただ、被毛の下の彼女の身体はまだ痩せていました。

グレースの問題は彼女の衰えた筋肉でした。
1か月もの間、小さな箱の中でほとんど動くことのなかったグレースは後ろ足と腰の筋肉に萎縮が見られました。
獣医師は将来的に理学療法が必要になるかもしれないと言っていましたが、グレースがトイレを使い始めたときからゆっくりと後ろ足を伸ばして乗り降りができました。
私たちはグレースが適切な食事を摂りもっと動き回るようになれば体力も回復すると思いました。
私たちは衰えた下半身を補うために使っている前足に永久的なダメージが起きていないかを心配していました。

私はオンラインで仕事をしているので、殆どの時間を家で過ごすことができます。
私は仕事に費やす時間もなにかグレースのケアに使う工夫ができないかと思いました。
不安を抱える動物のために作られたという癒しの音楽を見つけたので、1日4~8時間かけるようになりました。
グレースの部屋で一緒に過すときは読み聞かせをしたり、テレビを見たり音楽をかけたりしました。
そしてただ彼女と一緒にいるだけの時間も作りました。

もうひとつ、グレースを助けてくれたのが着ることで不安感を軽減する効果が期待できるというサンダーシャツでした。
サンダーシャツを着ていると、グレースは私たちに抱きつき、私たちの傍で横になるようになりました。

ある日の明け方、アレックスが私たちのところに来て興奮した様子でこう言いました。
『グレースの目の前で毛糸を垂らしてみたの。毛糸を這わせたら、グレースが目で追ったわ!』

私とパティは跳び起きてグレースの部屋へ走りました。
グレースはアレックスが目の前で動かす毛糸の動きを数秒間目で追いかけました。
それだけではありませんでした。
アレックスが手に乗せたキャットフードをグレースの口の前に差し出すと、グレースはそれを食べたのです。
食べ終わるとグレースは彼女の手を掃除しました。
普通の猫なら当たり前のことですが、グレースが人間の前で人間の手から食べるのは初めてのことでした。
私たちはお互いに涙を流しているのを笑い合い、グレースがひとつの大きな節目を迎えたことを心から祝福しました。

私たちと暮らし始めて4か月が過ぎると、グレースはサンダーシャツを卒業するところまでたどり着いていました。
ここに至るまで、犬のフランクはグレースにこの家が彼女にとっていかに安全かを教えてくれました。
新しく家族に加わった子猫のココはグレースにオモチャで遊ぶ楽しさを教えてくれました。

グレースは、私たちの前を横切りキャットフードのお皿の前へ歩いて行って食べています。
後ろ足を引きずるように歩いていたグレースは、正常に歩くことができるようになり、私たちのベッドに飛び乗るようになりました。
そして頭を撫でられることの快感を覚え、本当にとろけるような表情をして・・・ときどきよだれを流して笑わせます。

彼女は私たち家族全員に愛されて心の傷を癒そうとしています。
辛い過去にとらわれるのを止め、前を向いて歩き始めたグレースは大きくて輝くような瞳でおねだりします。
『ねぇ、ハグして。』
私たちは彼女とハグするのが大好きです。