ユタ州カナブにある動物保護施設Best Friends Animal Sanctuaryへ娘二人と一緒に出掛けたときのことです。

私は施設の中でふれ合ったたくさんの動物たちに対して、娘たちに宣言した以上、家に連れて帰れないことをなんだか申し訳なく思っていました。
それでも宣言を決して覆さないことを確信していました。
猫の建物で1匹の猫と出会うまでは・・・

その猫はキャットツリーの上で、目を半分閉じてとても不愛想な表情をしていました。
猫の耳は不自然に欠け、しっぽの半分を失くしていたため、その独特の外観に娘たちは少しコワイ感じがすると言いました。

私には・・・
おそらく闘いの末傷ついた猫が、何も気にする必要はないとすべてを受け入れているように見えました。

スタッフの方がその猫のことを話してくれました。

猫は12歳、名前はオスカーと言い昨年10月この施設へ連れてこられたそうです。
オスカーはカナブにある猫のコロニーで暮らしていました。
発見された当時から尾は半分しかなく、鼻に傷があり、耳から背中にかけての範囲と両耳に炎症を起こしているようでした。
コロニーで暮らす猫の世話をしている人が彼の異変に気付き、連絡を取ったことからこの保護施設へ保護されたそうです。

診察の結果、オスカーの背中はカンジダ感染症を患い、耳には感染症に加え皮膚癌が見つかりました。
感染症の治療後コロニーに返される予定だったオスカーは、皮膚癌を治療する手術を受けそのまま保護施設で飼い主を探すことになりました。
しかしその独特の外見が災いしたのか、半年の間出会いに恵まれなかったのだそうです。

スタッフの方はオスカーの個性は独特の外見に反してとても甘いと言いました。
オスカーのように抱っこが大好きな猫を見たことがないとあたたかいまなざしでオスカーを見上げていました。

『よかったらオスカーを抱いてあげて下さい。』
スタッフはそう言うと娘たちにオスカーを抱かせてくれました。

施設のスタッフは続けました。
オスカーはどんな人にも抱っこされるのが好きで、抱いてくれた人の首に前足を回し、喉元に頭をぴったりと付けて何時間もそうして過ごすのだそうです。

私は気持ちを抑えるのに必死になっていました。
スタッフの方の話を聞くうちに、どんどんオスカーに魅かれ始めていたのです。
娘の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らすオスカーを、私は撫でるだけで我慢するのにとても苦労しました。

猫の建物を出たとき、私の頭の中はオスカーのことでいっぱいになっていました。
どうしても我慢できなくなって、私は19歳の長女に正直に言ったのです。
『オスカーのことが気になってしかたないの。』

娘たちは私に宣言を忘れたのかと言ったものの、その顔は優しい笑顔でした。
私はオスカーを家族に迎えることにしました。

その日の午後、私たちは施設のコーディネーターに会い、引き取る手続きに入ろうとしていました。
その前にオスカーについて重大な話を聞くことになりました。

オスカーの肺には悪性の腫瘍があり、治ることはないというのです。
しかし、私の気持ちは変わりませんでした。
オスカーの時間が限られているとしても、彼に自分の家と家族に囲まれた時間を少しでも過ごしてもらえるならそれでいいと思いました。
でも。
娘たちがどう思うのか確かめる必要がありました。
すると娘たちは、オスカーとの時間を過ごしたいと言ってくれたのです。

施設へ迎えに行ったとき、私は初めてオスカーを抱きしめました。

オスカーは私ののど元に顔をうずめ、ゴロゴロと大きく喉を鳴らしました。
私は古い付き合いの親友と抱き合っているような不思議な感覚を覚えました。

こうしてオスカーと私たち家族の暮らしが始まりました。

私は毎日、お昼までの仕事を終えると帰宅してオスカーに薬を飲ませています。
そして、離れていた時間を取り戻すためにずっとオスカーと抱き合っています。

オスカーは一緒に過したいと思った人には躊躇なくジャンプして抱きつき、撫でてもらったり抱き合ったり、自分に注がれるまなざしをとても喜んでいます。

施設の人たちは私たちがオスカーを迎えたことをとても喜んでくれました。
抱っこが大好きな彼のことを、施設の誰もが愛していたのです。
彼らは可能な限り彼を抱っこしたり背負ったり、オスカーのおねだりに応えては彼のためだけに愛情を注ぐ家族との出会いを待ち望んでいたそうです。

私の宣言は敢え無く幻となりましたが、今の私はオスカーのいない生活を想像することができません。
オスカーには少しでも豊かな時間を過ごしてもらいたい、そして大切な時間を積みかさねていきたい、そう思います。
私の人生とオスカーの人生がこの家で交わっていたことを心から感謝しています。