友人たちと借りている古い家は、壁に穴が開いていたり、シミがあったり傷みが気になるところがありました。
でも、何より手ごろな家賃が私たちにとって一番の魅力だったのです。
壁の傷みやシミも、ポスターを張ったりお気に入りの小物を飾ったり植物を置いたり・・・気になる部分を隠しながらそれなりに楽しんできました。

11月の終わりごろ、私たちは自宅の天井裏に何かの気配を感じていました。
さらに壁の辺りから子猫の鳴き声のような音も聞いていました。
猫の親子でもいるのかしら・・・ルームメイトとそんな話をしていました。

私たちの住む地域に暴風雨が来るという予報が出され、一番心配だった雨漏りに備えてバケツをいくつか用意しました。
家の中に5か所、天井から雨漏りをしていたのです。
他にも気になっていたところにとりあえず対策をして、準備は万全、そう思っていたある日の夜でした。

私はランドリー室でベッドの準備をしていました。
すると突然、天井裏から引っ掻くような音が聞こえてきました。
次の瞬間、私の部屋から何かが壊れたようなものすごく大きな音がしたのです。

走って行くと、穴の開いた天井と床を走る猫の後ろ姿が見えました。
猫はそのまま部屋を走り抜けると、開いていた窓から外へ飛び出していきました。

驚いた私は猫が走り去った後に、小さな子猫が取り残されているのに気が付きました。
子猫は落ちたことに驚いて固まってしまい逃げ遅れたようです。
近付こうとすると、必死に威嚇してきました。
首の後ろをつまんで抱き上げると、生後数週間くらいのタキシードでした。

抱き上げた小さな子猫に、ルームメイトがざわめきました。
子猫のママが迎えに来るかもしれないのでしばらく待つことにしました。

『・・・戻って来ないね。』
『・・・もしかしたら、どこからか私たちを見ているかもしれないわね。』
『・・・私たちなら任せられるって思っているんじゃない?』

私は子猫にアスベストと名前を付け、一緒に暮らすことにしました。

はじめは警戒して、威嚇をしていたアスベストでしたが、シリンジでミルクを与えたり、一緒に遊ぶうちに私たちとの暮らしも悪くはなさそう・・・そう思ったようです。

ルームメイトたちは、アスベストがシリンジを銜えただけで癒されると喜んでいました。

突然現れたアスベストは私たちの注目を一身に集めていました。

念のためにアスベストを動物病院へ健康診断に連れて行きました。
彼の健康状態に問題は無く、アスベストのママはしっかりとお世話をしていたのだと思いました。

アスベストは私が家にいると私の後を付いてまわり、立ち止まると、足を上ろうとしました。
ピッタリと張り付いたように付いてまわるアスベストに、私はママのぬくもりが恋しいのかもしれない・・・そう思いました。
それで家にいるときはショルダーバックにアスベストを入れて過ごすようになりました。
アスベストは私の腰のあたりで大きな目をクリクリさせていました。

幸いその後もスベストの成長は順調で日に日に大きくなっていきました。

私たちルームメイトはそれぞれに仕事の時間が違い、誰かしら家にいます。
アスベストには常にルームメイトの誰かが傍にいる恵まれた環境にあったと思います。
さらに人懐っこいアスベストは私たちだけでなく、この家を訪れる友人たちにも可愛がられる存在になっていきました。

そして以前から一緒に暮らしてきた猫のレヴィも、アスベストを受け止めてくれる優しい兄のような存在になり、お昼寝と遊びの相手をしてくれました。

この家でアスベストが淋しさを感じる時間はありませんでした。

初めて会った時のアスベストは私の両手に乗ってしまう小さな子猫でした。
一緒に暮らし始めて3ヶ月が経過しようとしている今、幼かった表情にりりしさが加わりかなりのイケメンに成長しそうです。

ママと一緒に天井から落ちてきたとき、彼はそのまま私たちの心に入り込んで自分の家を見つけてしまいました。

アスベストのママは、きっとどこかで満足してくれていると思います。