地元ヒューストンで獣医看護師として働くレスリー・レイネスさんは病気で療養中でした。
猫の写真を見つけたとき、あまりの悲惨な姿に心を痛め一時的な里親として引き取ることにしました。

レスリーさんに代わって猫を引き取りに行った友人は、実際に猫の姿を見たとき、車で運んでいる間に死んでしまうかもしれないと本気で思ったそうです。

そのまま動物病院へ運ばれた猫は診察を受けました。
猫は体重不足と重度の貧血状態でした。
キャリーケースの中で自分の排せつ物の上で暮らしていた猫の皮膚は疥癬に侵され、片眼に感染症からの角膜潰瘍がみられ固く閉じた状態でした。
歯肉炎があり、腎臓と肝機能が低下し、さらにFIV(ネコ免疫不全ウイルス感染症)に陽性反応を示していました。

外の世界と隔離されて生きていた猫は、戸惑い、怯えていました。
狭いケースの中で立ち上がって歩くこともできなかった猫は足元をふらつかせ、精一杯の勇気を出してゆっくりとキャリーケースの外へ出てきました。
病院に駆け付けたレスリーさんは実際の猫の姿を見て言葉を失いました。
たくさんの猫を見てきた彼女でしたが、ネグレクトの被害にあった猫の中でもこんなにひどい状態の猫を知りませんでした。

治療を始め、一緒に暮らすようになった猫にレスリーさんはサミュエルと名前を付けました。

サミュエルの回復への道はようやく開かれましたが、それはとてもゆっくりとしたものでした。
はじめの数日、サミュエルはソファの後ろに隠れ、彼が最も安心できるワイヤーで囲まれたキャリーケースに座っていました。

サミュエルは自分以外の生き物と接触したことがありません。
そして彼は『遊ぶ』ことを知りませんでした。
椅子やソファ、猫用のベッドの上に下すとすぐに下りてしまい、床の上を歩くのさえまるで火のついた石の上を歩くようにとても怖がっていました。
サミュエルにとってはすべてが未知のもの、身のまわりのあらゆるものに慣れる必要がありましたが、そのためには人間への信頼を取り戻すことが必要でした。

数か月後、サミュエルは体重を増やし、本来のタキシードの毛が生えそろってきました。
しかし、彼の心の回復はさらにゆっくりで未だに克服しなければならないことがたくさんありました。

彼は自分の影や窓ガラスに映る自分の姿に驚き、とても怖がっていました。
レスリーさんにはサミュエルが怖がっているのは人を信じること、そう映っていました。

健康状態が回復し、サミュエルは少しずつほかの猫とも遊べるようになっていました。
新しい家族を見つける時期を迎えたサミュエルは引き取り手の候補がいくつか見つかり、レスリーさんは何軒かの家をサミュエルと訪ねました。
しかしそのたびにサミュエルは怖がりに戻ってしまい、なかなか出会いに恵まれずにいました。

そんなとき、ブライアン・スミスさんがサミュエルの写真を見て会いに来ました。
ブライアンさんは前の年、最愛のメインクーンを癌で失い、その猫に似たサミュエルに会ってみたいとやって来たのです。

ブライアンさんにあったときのサミュエルはそれまでと明らかに違っていました。
ブライアンさんがサミュエルに語りかけると、サミュエルはとてもリラックスした表情を浮かべたのです。

それでも慎重に様子を見守っていたレスリーさんが確信を持った瞬間がありました。
ブライアンさんとふれあっていたサミュエルが、急にレスリーさんの方へ近付き、一声鳴くと再びブライアンさんの方へ歩き出したのです。
『彼だよ。』レスリーさんはサミュエルがそう教えてくれたのだと思いました。

ブライアンさんと暮らし始めたサミュエルは、椅子やソファでくつろげるようになりました。
ブライアンさんが『いい子だね』と声をかけるたびにフミフミをして嬉しそうな表情を浮かべています。

そして、大きなガラス戸から庭のリスを見ているのが大のお気に入りになっています。

ブライアンさんと出会ったサミュエルは、お互いを癒しあって暮らしています。
ブライアンさんをまっすぐに見上げるサミュエルのまなざしは愛されているという自信が感じられます。
レスリーさんの献身的な支えが、サミュエルを今に導いてくれました。

これからブライアンさんと一緒に人生をたっぷりと楽しんでほしいですね。