2005年6月のある日。
ケンタッキー州レキシントンのチェヴィー・チェイス動物クリニックで獣医助手として働いていたメリッサ・スミスさんは、若い男性が運び込んだ交通事故に遭い倒れていたという生後1か月の子猫と出会いました。

子猫は顔面を激しく損傷し、後ろ脚にも重傷を負っていました。
獣医師が安楽死を視野に入れるほど深刻な状態だった子猫。
いくつかの手術にテネシー大学の支援を受け、獣医師は懸命の治療を施しました。

しかし、獣医師たちの努力にもかかわらず子猫の顔面の経過は思わしくなく、まぶた、鼻、周辺の皮膚は元の状態を取り戻すことはできませんでした。
そして、後ろ足の1本は切断することになりました。

子猫はチェイスと呼ばれるようになりました。
獣医師も驚くほどの生命力を持ったチェイスは、当日の夜から歩いたそうです。
退院すると、夜はメリッサさんが自宅でお世話をし、昼間をクリニックで過ごし治療が続けられました。

チェイスが治療を受ける間、彼女を病院へ運んだ男性からは励ましの手紙と共に治療のための寄付が寄せられていたそうです。

自宅でお世話をしていたメリッサさんは、チェイスの前向きな姿勢と愛情深い性格に心を奪われ、彼女との間に絆が生まれていました。
空軍指揮官と結婚し、オマハに住むことになったメリッサさんはチェイス家族に迎え、生涯を共に過ごすことを決心しました。

ケガから回復したチェイスはまぶたを失ったために乾燥から守る点眼薬と鼻薬が欠かせません。
しかし視力に問題はなく、チェイスは虫を追って遊ぶこともできます。
2度と毛が生えない顔は皮膚組織のピンク色をしていますが、幸いにも痛みなどは全くありません。
チェイスの日常はほかの猫たちと全く変わりはありませんでした。

メリッサさん夫妻にとって、初めての家族ともいえるチェイスは、ご夫妻に赤ちゃんが生まれると少しヤキモチを焼いていたそうで。
しかし、弟、妹が増えるたびに成長が見られ、お姉ちゃんらしく寄り添うようになったといいます。

メリッサさんは大きな困難を乗り越え、全てを受け入れて大らかに生きるチェイスと暮らすうちに彼女しかできないことを見つけていました。

メリッサさんは、子どもが生まれる前に障害を持つ子供たちをチェイスとともに訪れるようになりました。
チェイスの視点で彼女の日常を綴るブログを開設し、チェイスの写真をたくさん公開しました。
そこには、たくさんの人に『完璧ではない自分を受け入れ、ありのままに生きてほしい』・・・そんなメリッサさんのメッセージが込められていました。

そのブログは愛猫家を中心に大きな反響を呼び、その後、Facebook【Chase No Face/Chase Heart Face】とインスタグラムを通じてさらに支持を集めるようになりました。

そして、チェイスは彼女と同じように事故や病気のために外見に悩みを抱える人たちのために、Friendship for Friendshipの慈善団体でセラピーキャットとしても活動するようになりました。

『チェイスはほかの猫と変わらない100%同じ生活を送ることができます。だけど、100%外見が異なり、だからこそ多くの人にメッセージを届けることができると思います。』
そう話すメリッサさんはチェイスと初対面の人には今でも注意を促すそうです。

チェイスの外見にショックを受けるのは人間だけではありませんでした。
チェイスの後に家族に加わった猫のゾーイは、彼女と毛繕いをし合うまでに4年かかったそうです。

でも。
ゾーイと同様チェイスの内面に触れたほとんどの人が、彼女に心を奪われてしまいました。
チェイスは美しさや魅力が内面にあることを改めて思い起こさせてくれました。

チェイスは今年13歳を迎えますが、健康状態は良好です。
しかし数名のセカンドオピニオンを持ち、メリッサさんは常にチェイスの健康を気遣っています。
現在も、獣医師が全員太鼓判を押すほど健康なチェイス。
それは、愛情あふれる家族との絆に支えられたものかもしれません。

昨年のハロウィン。
メリッサさんの長女は大好きなチェイスの扮装をしました。
チェイスの顔はピンクのハートで表現されていてとてもキュートです。

生後1か月の小さな野良猫だったチェイスは、命の危機を乗り越え、メリッサさんと出会いに恵まれ、あたたかい家族に囲まれています。

チェイスはこれからもメリッサさんと共に、たくさんの人を温め続けていくことでしょう。