その日私は、地元にある動物愛護協会の動物管理センターに来ていました。
そこでボランティアとして働くための訓練で施設内の見学をしていたとき彼と出会いました。

ケージの中から私に向かって必死に手を伸ばしてくる猫がいたのです。
中を覗くとフワフワな毛をした猫が訴えるような目をしていました。
ケージを開けてもらい撫でようとすると、手を伸ばして来た猫は少し怯えた様子でした。
それでも私が撫でると、すぐに喉を鳴らして頭を擦りつけてきたのです。
私は今まで出会ってきた猫の中で一番かわいいと思いました

スタッフの方の話によると10歳になるその猫は捨てられて野良猫として暮らしていたところを保護されたそうです。
猫は保護されたとき上気道感染症とネコニキビを患い、歯肉炎のために何本かの歯を失っていて今も苦しんでいると言います。
そしてスタッフはこう言ったのです。
施設の中で一番病弱な上に高齢なその猫は、おそらく引き取り手が見つからないだろう、と。

私は胸が張り裂けそうになりました。
そして、何とかこの猫の力になりたいと思ったとき、私は猫をそのまま残していくことができませんでした。

ムファサと名付けられていた猫を、私はその日のうちに手続きを済ませ家に連れて帰りました。

自宅に着いたムファサは、私がベッドの上に脱いだ制服の上に落ち着きそのまま長いお昼寝を始めました。
安心しきったその寝顔は、まるで
「ぼくのおうちだぁ・・・」
そう言っているように見えました。

私は早速ムファサを動物病院へ連れて行きました。
彼は数回注射を打ってもらいました。
治療の効果はすぐに表れ、呼吸は正常に戻り、喘鳴やクシャミもなくなりました。
彼を苦しめていたネコニキビもすっかり良くなりました。
歯肉炎の治療を終えたムファサは今、健康を取り戻しています。

センターで私に手を伸ばしてきたムファサは、きっと寂しくて仕方がなかったのだと思います。
寂しさから解放されたことが、ムファサの回復を後押ししてくれたのかもしれません。
ムファサの回復ぶりは驚くほど速かったのです。

彼は、10歳かもしれませんが心は小猫のままでした。
そんなムファサを見ていると、私はムファサがそうさせてくれる限り、彼を甘えさせようと思いました。
ムファサは私たち家族に自然に溶け込んでいました。
ムファサを家族に迎えて本当に良かった・・・毎日そう思えるのはとても幸せなことですし、私は感謝せずにはいられなかったのです。

センターのスタッフの誰もが、きっと引き取り手が見つからないと諦めていたムファサ。
ケージの中のムファサはとても淋しくて、きっと自分の存在を誰かに気付いてほしくて仕方がなかったのでしょう。
ケージを開けられたムファサは怯えていたのではなく、自分に気付いた私を目の前に一瞬戸惑っていたのかもしれません。

ムファサが我が家に来て半年が経とうとしています。
小猫のままのムファサは、相変わらず、家族の中で甘えながらゆったりと過ごしています。
ムファサが甘えた目をして私たちを見上げてくるたびに、ムファサは私たちが彼を愛していることを知っていて、ムファサもまた、私たちを愛してくれていると感じることができます。

私のボランティアの仕事は、こうして、新しい家族との出会いからスタートしたのです。