住宅の下見に行ったデビとダイアンの姉妹は、中の状況を見て愕然としました。
家中の床を排泄物が覆い、住人が残していったいくつかの家具はボロボロになっていました。
不潔極まりない最悪の環境に、40匹近くの猫が数か月を生きていたのです。

救出初日、小さな子猫たちを先に捕獲する作戦でした。
私たちは安全のためにハザードスーツを着用して現場に入り、全ての子猫を捕獲しそれぞれ動物病院へ運びました。

どの子猫も獣医師の診察が必要な状態だったのですが、その中でも小さく丸まって殆ど息をしていない子猫がいました。
一刻を争うと感じた私は、最寄りの動物病院へその子猫を連れて行きました。
しかし、獣医師に安楽死をすすめられたため、地元の動物病院へ再び走ったのです。

子猫の身体を隅々まで見ていた獣医師が、子猫の状態に思わず眉を曇らせていました。
獣医師が子猫の毛をかき分けると体中から無数のダニが這い出してきました。

子猫は栄養失調で痩せ細り、首の後ろに咬まれた傷がありました。
失血のため深刻な貧血の状態だった子猫は、獣医師の手から逃れようと必死にもがきました。
衰弱しきっているはずの子猫は生きることを諦めていませんでした。

獣医師は子猫をタオルでくるみ、ウェットフードをスパチュラに乗せて鼻先に持って行きました。
すると子猫は身を乗り出して食べ始めました。

子猫の食欲がひと段落すると、獣医師が子猫をお風呂に入れてくれました。
子猫をくるんでいたタオルにはたくさんのダニがうごめいていました。
獣医師は何度も何度もきれいに洗い流し、さらに看護師とふたりがかりで1匹1匹丁寧に取り除いてくれました。

数時間後、自宅で看病をすることにした私は子猫を連れて帰り、彼女をプリンセスと呼ぶことにしました。
その夜、ケージの中でタオルにくるまったプリンセスはホッとしたような、穏やかな表情をしていました。

翌日、私は再び現場へ向かい、姉妹たちと残った成猫たちをすべて保護し病院へ運び、用意した避難所へ送り届けました。

数日後、食欲を取り戻したプリンセスは、自分からご飯を催促するようになり、私がケージを開けて声をかけると返事をするように鳴きました。
幸いなことにプリンセスが初めに学んだことは私に信頼を置くことでした。
そしてすぐにトイレをきれいに使うことも自分で学びました。

次第に体力を取り戻したプリンセスは、その後首の傷が原因の膿瘍を取り除くため獣医師のところで数日を過ごしました。

帰ってきたプリンセスは、ウェットフードをたくさん食べて目に見えて元気を取り戻していきました。
そしてプリンセスの新しい家が見つかりました。
彼女の新しいママは、獣医の助手を務めていた女性です。
私は完璧だと思いました。

5か月後、初めてプリンセスを新しい家に訪ねることになりました。

私が部屋に入っていくと、見違えるほど大きく成長したプリンセスが私に気付きました。
プリンセスが近付き、私が差し出した手に鼻をコツンとぶつけてきました。
『私を諦めないでくれてありがとう』
私はプリンセスがそう言ってくれた気がしました。

プリンセスとオモチャで遊びました。
小さかったプリンセスが私の中で鮮明によみがえり、目の前の成長した姿と重なっていきました。
まるで奇跡を見ているようでした。

最悪の状況で生まれたプリンセスは、最高の家に迎えられました。
決して諦めなかったプリンセスの強い意志が、彼女の運命を変えたのです。

あの日、一緒に救出された仲間たちの殆どが、それぞれに新しい人生を歩み始めていました。