薄暗い廊下を抜けると、資材や不要になった家具などが雑然と置かれた地下室がありました。
暗くひんやりした地下室はお世辞にも衛生的とは言えませんでした。

突然、1匹の猫が現れて柱の角を曲がっていきました。
後を追って近付こうとすると、猫が私の動きを警戒しているのが分かりました。
慎重に近付かないと逃げられてしまいそうです。

地下室にはその猫以外、ゲストと呼べる存在はありません。
『あなたがゲストさんね?』

自宅からキャットフードを入れた小さなボールを持ってきました。
猫の前にゆっくりと近付き、少し距離を空けてボールを置きました。
しかし猫はキャットフードではなく私に向かってきました。
私と会えたことが嬉しかったようで、頭突きをして甘えてきたのです。
とてもフレンドリーな猫で、頭や顎を撫でると喉を鳴らしました。
猫は、満足するとようやくキャットフードを食べ始めました。

それにしてもなぜあんな所に猫が、いつからいると言うのでしょう・・・
私はマンションのオーナーに猫のことをたずねました。

猫は以前このマンションに住んでいた住人が飼っていたそうです。
しかし20年前、飼い主は引っ越した際に猫を地下室に置いていってしまい、
それ以来夕方1度だけキャットフードを与えに来ているそうです。
猫は、そのまま地下室に住み続けていたのです。

私に『地下室のゲスト』の話をした隣人はときどきマンションの近所で『ゲスト』を見かけることがあると話していました。

猫は存在を気付かれながら、残念なことに家に迎える人と巡り会えずにいたのです。

私は猫をグラニー(おばあちゃん)と呼びました。
私はマンションのオーナーにグラニーを追い出してもらうよう話をしました。
そして、行き場を失ったグラニーを保護しました。

私はすでに2匹の猫と一緒に暮らしていましたが、グラニーに紹介したいと思う友人がいました。

私たちはグラニーを動物病院へ連れて行きました。。
獣医師の話では、グラニーは間違いなく高齢で、腫瘍があり手術が必要だと言います。
他にもいくつか健康上の問題が見つかりましたが、幸いにも全て治療をすれば治るものでした。
そしてその足で、グラニーを引き取りたいという私に友人の家に向かいました。

キャリーケースから出たグラニーは、友人の家に戸惑っているようでした。
そして、バスルームのタイルに座るとそこから出ようとはしませんでした。

グラニーは友人の家を嫌がっているようではありませんでした。
でも突然変わった環境に緊張していることでしょう。
おそらく、薄暗くひんやりとした地下室と似たバスルームが落ち着いたのだと思い、友人と私はしばらく様子を見ることにしました。

翌日、友人の家をたずねるとグラニーはバスルームのドアの前で私を待っていました。
グラニーはバスルームを出て、日差しの中でご飯を食べ、友人の手からキャット―フードを食べていました。
食事を終わると家の中をゆっくりと探検し始めたそうです。
そして、バスルームに戻ることはありませんでした。

友人の足に摺り寄り、友人が立つとその傍に寄り添うように座りました。
友人の手からおやつを食べ、嬉しそうに頭を擦りつけました。
友人は、グラニーが大好きなブラッシングを何度も催促すると言って笑いました。

グラニーは自分の家を見つけ、友人は年内に受けるグラニーの手術の準備を始めました

ひとりぼっちの時間が長かったグラニーは、20年分の孤独を取り戻すかのように、友人にずっとくっついています。
まるでお行儀のいい甘えん坊の子猫のようです。
これからのグラニーにはこれまでの何倍も人生を楽しんでほしい、そう思っています。