その日、近所に住む1匹の痩せた野良猫が目に留まりました。
その猫はお腹を空かせて食べ物を探しているようでした。
私が猫の前に食べ物を置くと、警戒していた猫は空腹には耐えられなかったとみえ、ガツガツと一気に食べてしまいました。

ボールが空になると、野良猫は向きを変え私の方へ近付いて来ました。

私が手を差し出すと野良猫は私の指先を舐め始めたのです。
まるで食事のお礼を言っているようでした。

私はどうしても猫のことが気になって、そのままその場に残しておくことができませんでした。

私の自宅に入った野良猫は、5分もするとソファに座った私の傍に上がって来て、私の腕に抱きつきました。
そして、そのまま眠ってしまったのです。

私は少し驚いたのですが、せっかく眠った猫を起こしてしまうのが可哀想に思えました。
猫が目を覚ますまで動けなくなってしまいました。
その時すでに、会ったばかりの野良猫は私の心に忍び込んでいました。

私は、野良猫が誰かに飼われていないか確認しようと、近所の家を訪ねて回りました。
しかし、猫を知る人はいませんでした。
私は猫にボッシーと名前を付け、家族に迎えることにしました。
ボッシーは、私の指を舐めたとき私の家を自分の家に選んだようです。

ボッシーはいたって普通の猫でした。
私が留守の間にゴミ箱をひっくり返して部屋中に散乱させ、私が咎めると家具の下に潜り込んでしまいました。
私を覗き込む彼女の目は、なぜ咎められるのか分からないという顔をしていました。
そんな後でも私の腕に抱きついて離れようとしませんでした。

健康診断を受けにボッシーを動物病院へ連れて行きました。
ボッシーはFIV(猫免疫不全ウィルス感染症)と診断されました。

思いもよらぬことでした。
今でも健康を保っているボッシーですが、その時以来、私はボッシーと過ごす時間をとても大切にするようになりました。

ボッシーは毎朝、私のベッドへやって来て手にキスをしたり、腕を抱きしめます。
私はボッシーに毎朝起こしてもらえるようになりました。

幸い5年たった今もボッシーは健康に保たれています。
相変わらず私の腕はボッシーに占領されています。
うつ病の診断を受け、苦しんだ私にとってボッシーの存在は何よりの救いでした。

ボッシーは未だに私の腕に抱きついて、私と彼女の大切な時間を輝かせてくれています。