マリー・イブは隣の家でいつも見かけるその猫の哀しそうに曇ったまなざしに心を痛めたといいます。
彼女はその猫にエサを与えるようになり、猫の頬が異様に膨らんでいることに気付きました。
その猫には誰かの助けが必要なことは明らかでした。
彼女は今年7月、その想いを行動に移す計画を立て、その猫を保護するためにトラップを仕掛けることにしたのです。

しかし、その猫はとても賢い上に警戒心が強く、決して人間やトラップに近付こうとはしませんでした。
それでもマリーは諦めず、トラップを仕掛け続け3週間ほどたったある日、
飢えに耐えきれなくなった猫はついにマリーの仕掛けたトラップで無事に保護されたのです。

マリーは私たちの施設に連絡を取ってきましたが、あいにく施設は満杯の状態でした。
マリーは施設が受け入れられる用意ができるまで、責任をもって猫のお世話をすることを約束しました。
彼女は猫を動物病院へ連れて行き、診察を受けさせ絡み合った全身の毛を短く刈ってもらい、必要な薬を全て受け取りました。
その日、マリーはその猫と一緒に帰宅し、猫のために温かいベッドを用意したっぷりのご飯をごちそうしました。
猫は、その夜はじめて痛みと空腹から解放され安心して眠ることができたのです。

数週間後、施設の準備が整いマリーはその猫を施設に託しました。

私たちは猫をマルセルと呼び、彼のお世話と治療を引き継ぎました。
マルセルは4歳になり、完全な野生ではなく以前は飼い猫であったことが分かっていました。
マルセルの顔には戦いによるいくつもの傷跡が残り頬には膿瘍があり、何本かの歯は欠け治療が必要でした。
耳は凍傷による欠損が見られ、少なくとも一冬を外で過ごしたと思われました。
マルセルの顔は、その暮らしがかなり厳しいものであったことを物語っていました。

マルセルは短い間にめまぐるしく変わる環境にとても緊張し、診療室で治療を受ける間ずっと下を向いたまま誰とも視線を合わせようとしませんでした。
マルセルにはあらゆる治療が施され、彼の頬にあった膿瘍は治癒していきました。

私たちはマルセルが安心して静養できるように、施設の養育ボランティアをしているリリーの自宅に彼のお世話をお願いすることにしました。

リリーの家に移されたマルセルは、再び変わった環境に怯えてずっと物陰に隠れていました。
しかし1日が過ぎるとリリーの前に姿を見せ、彼女の膝の上に上がり甘え始めまたのです。
マルセルはリリーの家が自分にとって安心できる場所だと感じ取っていました。
はじめての夜、マルセルはリリーの傍で無防備な姿を見せて眠りにつきました。

始めのうちこそ小さな物音に敏感に反応していたマルセルでしたが、しばらくするといつも穏やかに過ごせるようになっていました。

マルセルは6.5kg近い体重を持ち大きな体をしています。
体力を取り戻してきた彼は日に日に力強くなりましたが、心の中はいつまでも小猫のままでした。
リリーに愛情を注がれたマルセルは、保護されて数週間が経つと人間への信頼を完全に取り戻し、人間との暮らしに安らぎを見つけることができました。
寝る時間になると、リリーに抱っこをせがむマルセルは、新しい家族を探す時期を迎えていました。

マルセルが保護されて2か月が経ちました。
マルセルは彼を家族として迎えたいというある家族と出会い、彼らの家へ旅立って行きました。
マルセルは、新しい家族に愛されいつも家族の中心にいます。

マルセルの窮状に辛抱強く救いの手を差し伸べ続けたマリー・イブとの出会い。
マルセルにとって彼女との出会いは長く苦しい旅の終わりを告げるものとなりました。
マリーの強い意志と、リリーの献身的なお世話のおかげでマルセルは今、自信に満ちたまっすぐなまなざしで輝くような日々を送っています。