猫は12年の間、一度も名前を付けてもらえませんでした。
当然、世話をしてもらえるはずもなく、発見された猫の歯は数本が腐敗し、毛はところどころ抜け落ちていました。
さらに聴力を完全に失い、腎臓がほとんど機能していない深刻な状態だったのです。
3月の初め、辛く孤独な日々を送っていた猫を発見した私たちは、施設に迎え入れここで暮らしてもらうことにしました。

猫を迎えた日、施設に到着してキャリーケースを出た猫はすぐさま私たちに抱きついて来ました。
私と妻はこれまで数千匹の保護猫を見てきましたが、こんなに愛情深い猫を見たのは初めてでした。
猫はカリンの腕にしがみつき、腕の中で丸くなると決して離れようとしなかったのです。
猫は心を閉ざしてなどいませんでした。
一日も経たない間に、私たちは猫に心を奪われてしまいました。

私たちは猫にノビー・ノブスと名前を付け、施設の獣医師による治療を始めました。
ノビーの病状は決して楽観できるものではなく、しばらくの間夜間は病院の集中治療室で過ごすことになりました。
日中は施設の彼専用の部屋で常に体を温め、リラックスして過ごしていました。
その後、少しずつ回復に向かったノビーはカリンから離れなくなり、彼女の手が空くと抱きついて腕の中でずっとフミフミをしていました。
ノビーは今まで一度も、誰からも抱かれることはなかったかもしれません。
私たちはノビーが誰かに愛され、愛することを一番に望んでいたのだと感じました。

私たちが運営する施設には、障害や病気を抱えていたり、あるいは高齢のために引き取り手の見つかりにくい猫たちがたくさん暮らしています。
カリンと私はそんな猫たちの世話をして、忙しい毎日を過ごしています。
ノビーは一人になると、施設のどこにいても聞こえるくらいの大きな声で私たちを呼びました。
ノビーは自分の声を聴くことができません。
だから自分の声がどれだけ大きいか分からなかったのです。

カリンはそんなノビーのためにベビー用の抱っこひもを使って、常にノビーを抱きながら仕事をするようになりました。
カリンはノビーに体温を感じてもらい、その温かさはノビーに愛されているという実感を与えるのに役立ちました。
まるでカンガルーのようなありさまでしたが、ノビーはカリンの胸に抱かれ、満足そうな顔をしていました。

ノビーが施設の一員になって5か月が経ち、彼は普通の生活ができるところまで回復することができました。
8月のある週末、私とカリンはノビーを連れてビーチのバカンスを楽しみました。
はじめて見るビーチをノビーは私たちにぴったりと寄り添って過ごしました。

施設でほかの猫たちと一緒に過すようになったノビーは、仲間たちにすぐに打ち解けました。
しかし、私やカリンがほかの猫の相手をしていると、競って自分も仲間に入ろうとしています。
私が外の仕事を終え、帰宅すると先を争って集まってくる猫たちの先頭を切るのがノビーです。
彼は、誰よりも早く私の脚元に駆けつけ、足を上って抱き上げてほしいと必死でアピールするのです。
とても闘病していた12歳の猫とは思えません。

生まれてからほとんどの時間をたった1匹、暗いガレージに閉じ込められていたノビーは、自分に欠けていた誰かを愛することと愛されることをたくさんの家族に囲まれた今、実感しています。
彼は2度とひとりぼっちになることはありません。
私とカリンは、ノビーと出会えたことを感謝せずにはいられません。