夫のジェリーは、退役軍人です。
彼は脳卒中で倒れ、その後遺症から右腕の自由を失い、自分の感情をスムーズに伝えることが困難になりました。
でも、どうしてもという場合以外に私の手を借りることはほとんどありません。

その日のジェリーは庭仕事をしていました。
『子猫を助けたいんだ!ちょっと手伝ってくれない?』
突然ジェリーがポーチから私に声をかけてきました。
『猫?』
自宅に猫と犬を飼っている私は、少し混乱しながら彼のもとへ駆けつけました。
ポーチの横にある低い茂みの前に膝待付いたジェリーが、茂みの中に左腕を突っ込んでいました。
ジェリーの腕の先に3匹の子猫がいるようです。
彼は子猫を掬い上げて次々と私に手渡していきます。
3匹目は重いプランターの奥にいたため、ジェリーはプランターを動かさなければなりませんでした。
そして子猫を掬い上げると、残った子猫がいないか確認して元に戻していました。

ジェリーが庭で子猫たちを見つけたときから、少し離れた場所で1匹の猫が私たちの様子をずっと見ていました。

ジェリーの話によると、彼は少し前に子猫たちと母猫がガレージに潜んでいるところを見つけ、保護しようとしたそうです。
しかし自由の効く左腕だけではどうしても捕まえることができなかったと言っていました。

猫はその母猫でした。
母猫はジェリーが最後の1匹を掬い上げ、私が受け取ったのを見届けるとそのまま立ち去って行きました。
私たちは母猫が戻ってくるのを待っていたのですが、母猫は2度と姿を見せませんでした。

ジェリーは家に入ると、段ボール箱に子猫とトイレを入れ、他のペットから手が届かないようにしました。
子猫たちは、生後6~8週、そろそろ離乳の時期でした。
私たちは子猫たちに食べることを教えるために、子猫用のキャットフードを水でふやかし、柔らかくして与えることにしました。
子猫たちは、はじめはなかなかうまく食べることができなかったのですが、数日経つとコツを覚え、モリモリ食べるようになりました。

順調に成長する子猫たちに、私は新しい家族を見つける準備を始めました。
普段から感情を伝えるのに時間のかかるジェリーは、食事の支度をしている私に向かって突然話し始めました。
『私は反対だよ。新しい家族が見つかったとしても、彼らが子猫たちを本当に愛してくれるか分からないじゃないか。』
ジェリーは、ガレージの隙間をあえて塞がずそのままにしています。
彼は、野良猫たちが逃げ込むスペースを確保するために、そうしているのだとも言いました。

ジェリーは3匹の子猫たちを私たちに託した母猫の想いを、想像以上に深く受け止めていました。
私たちは3匹の子猫たちを家族として迎えることを決めました。

子猫たちに名前を付けました。
白い靴下を履いているような『ブーツ』、毛色が明るいグレーのアッシュ、それにシンダーです。
ブーツは甘えん坊で、私たちの注意を引くためにじっと見つめてきます。
こんな目で見つめられたら、誰だって無視できませんよね。

我が家に暮らす猫の1匹、10歳のエミーは元の飼い主がなくなったために私たちが引き取った猫です。
私たちはエミーに子猫たちを紹介しました。
はじめはお互いにあまり興味を持たなかったのですが、しばらくすると子猫たちはエミーに甘えるようになり、エミーも子猫たちの面倒を見てくれるようになりました。

3匹が家族に加わって2か月後、彼らは立派に成長し、元気に飛び回っています。
ジェリーは母猫の想いをしっかりと受け止め、今なお子猫たちに愛情を注いでいます。
母猫の確信は現実となりました。
そしてジェリーは、これからも母猫の信頼を裏切ることはありません。