ヘザーさんが勤務する動物診療所にシーマスが連れて来られたのは、彼が生後約5週のときでした。
シーマスの口元は口唇口蓋裂と言う先天的な障害を持ち、鼻の根元まで裂けています。
さらに彼の左頬にある小さなコブのために少し違う顔を持っていました。
シーマスの元の飼い主は、シーマスの治療費を賄えなかったために彼を手放すことしたのです。
飼い主に見捨てられたシーマスは、診療所のヘザーさんや他のスタッフに対して攻撃的な態度を見せていました。

シーマスには数匹の兄弟がいたのですが、彼らは自分たちと違う顔を持ったシーマスを仲間はずれにしていました。兄弟に拒絶されたシーマスは深く傷つき孤独でした。
自分の周りには見方が一人もいなかったシーマスは、生き残るために周囲に対して攻撃的でいるしかありませんでした。
生まれたときから孤独を味わってきたシーマス。
そんなシーマスに心を痛めたヘザーさんは、彼にこそ愛情を注いでくれる家族を見つけるチャンスが必要だと思いました。
ヘザーさんはシーマスを自宅でお世話をしたいと申し出たのです。

『兄弟にさえ仲間外れにされたシーマスは、兄弟の前でいつもケンカ腰でいるしかなかったようです。私の自宅に来てからも、彼はときどき攻撃的な態度をとっていました。』
自分を守るために心に固い鎧をまとってしまったシーマスに、ヘザーさんはたっぷりの愛情を注ぎ、人間との暮らしにシーマスが適応するよう助けることに集中しました。

シーマスは生後間もない頃、頬にあるコブが視界を遮っていたため周りを十分にみることができませんでした。
それは、彼が周囲から学ぶチャンスを奪うことになり、トイレを覚えることもできなかったようです。
シーマスの成長と共に、視界の問題はクリアできたのですが、生活に必要なあらゆる行動が他の兄弟に後れを取っていました。

シーマスはヘザーさんの家にきて初めてドライフードを食べました。
シーマスが初めてトイレを使えるようになったとヘザーさんが勤務先で嬉しそうに話したとき、診療所のスタッフはみんなで大喜びしたそうです。
ヘザーさんが辛抱強くシーマスに向かい合い、シーマスもまたヘザーさんに導かれて頑張ってくれたおかげでした。

シーマスは、ヘザーさんの愛情のおかげで心に鎧をまとわなくてもいいのだと気づくことができました。
ヘザーさんの指をかむのが大好きなシーマスからは、次第にヒステリックで攻撃的な態度は見られなくなっていました。
シーマスがヘザーさんの家で暮らし始めて1か月余り、シーマスの新しい家族を探し始めていた診療所に、彼に興味を持ったカナダの獣医師ジャスティン・トルドーさんから連絡が入っていました。

4月の終わり、シーマスは迎えに来た新しい家族と共にカナダへと旅立って行きました。
シーマスを引き取ったジャスティン・トルドーさんは、カナダで歯科医を専門とする獣医師でした。
口唇口蓋裂の治療を必要としていたシーマスにとって、最高の家族が迎え入れてくれたのです。
シーマスがカナダに旅立つとき、それまでのシーマスを見ることができなかったジャスティンさんの家族のために、ヘザーさんはシーマスのとっておきの写真を彼らにプレゼントしました。
そこには、ヘザーさんの指をくわえる無邪気なヘザーの写真がありました。
シーマスはこれからも、カナダの地で幸せそうな写真をたくさん増やしていくのでしょうね。