短い間に愛する家族を次々と失ったシナモンは、飼い主の親戚に引き取られていきました。
しかし、その親戚が彼女を引き取ったのはシナモンと飼い主さんの思い出がたくさん詰まった家を売り払うためでした。
新しい家でシナモンを待っていたのは親戚による虐待の日々でした。
棒を持った彼らはシナモンを追い回していたのです。
心身ともにボロボロになったシナモンは、ついに彼らの家から追い出されてしまいました。

地元の保護団体SCARSがシナモンを保護し、ボランティアの中で一番のベテラン、ケイティに預けることにしました。
ケイティの家には保護されたほかの猫たちの数匹が暮らしていましたが、ケイティはシナモンのために専用の部屋を用意しました。
日当りのいい温かい部屋と美味しい食べ物に新鮮な水。
そしてたくさんのオモチャがありました。

シナモンの身体には無数の傷があり、膵臓癌を患っていることが分かりました。
さらに膵臓癌が原因の脱毛症が彼女を苦しめていました。
SCARCは、高齢のシナモンが一日も早く心の傷を癒し、穏やかな最期を迎えられるようにと完璧な治療を施すことにしました。
しかし。
すべてを失ったシナモンの心の傷は深く、彼女には怒りと混乱しかありませんでした。
SCARCが保護したとき、シナモンにとってそれは保護ではなく、拉致と感じていたにちがいないとスタッフが話していました。

ケイティの家に移されても、シナモンは人間との接触を一切拒否し続けていました。
ケイティが掃除のために彼女の部屋に入ると、シナモンは部屋の隅でじっとケイティが出て行くのを待っていました。
ご飯の時もケイティはシナモンのお皿を置いて来るだけの日が続いたそうです。
しかしケイティはそんなシナモンのペースに合わせる覚悟ができており、少し離れた所からずっと彼女を見守り続けていました。

シナモンの話を聞いた私は、ぜひ彼女に会いたいと思いました。
私は、シナモンにもう一度愛されていると感じて暮らしてほしいと思ったのです。
彼女の心の傷は、そう簡単に癒せるとは思えませんでしたが、高齢で重い病気を抱えた彼女に多くの時間は残されていないはずでした。

ケイティの家で暮らし始めて数か月が経った頃、シナモンは唯一ケイティを受け入れ始めていました。
シナモンは、ケイティが彼女のそばに座ることを許すようになり、ご飯の時間になると部屋に来たケイティの足に摺り寄ってきました。

ケイティの家をたびたび訪れるようになった私は、シナモンの部屋に入ることを許されていました。
シナモンは私たちの前でご飯を食べるようになり、その部屋が自分のためのものであることを誇示するように部屋中を歩き回って見せました。

ケイティの辛抱強いお世話のおかげで、シナモンは人間への信頼をゆっくりと取り戻しつつありました。
ある朝、シナモンの部屋に入ったケイティは床に散らばっているたくさんのオモチャを見つけたと、とても嬉しそうに話してくれました。
それまで一度もオモチャに触れようともしなかったシナモンがひとりで遊び始めていたのです。

この頃になるとシナモンは私の訪問を歓迎してくれるようになっていました。
私の声がするとシナモンは部屋の入り口で待ち構えてくれました。
それでもまだ、私は一度もシナモンに触れることはできませんでした。

2016年もあと数日。シナモンがケイティの家で暮らし始めて半年が経とうとしていました。
私はシナモンの横に座り、ジャケットの袖を盾に彼女の顎を撫でてみました。
すると・・・シナモンは慎重でしたが、私の手を拒否しなかったのです。
私が撫でると小さく鳴きました。
私はジャケットの袖から手を出し、直にシナモンを撫でました。
頭を撫で、喉を撫で・・・シナモンは私の手に頭を突き出してくれました。

私はシナモンのフワフワの毛の感触を忘れられません。
私はこの日を決して忘れないでしょう。
嬉しさのあまり、私は彼女の前で涙を流してしまいました。
シナモンを見守る私たちにとって、2016年は奇跡で終わりを迎えました。

新しい年を迎え、私はシナモンに遊び相手として採用されました。
彼女のベッドの入口に、オモチャをちらつかせるとシナモンは我慢できなくなって追いかけて遊びました。
無邪気に、しかも軽やかにオモチャを追うシナモンはまるで少女のようでした。

彼女のからだの傷はその痕もほとんど残っていません。
病気が完治することはないかもしれませんが、脱毛の状態もかなり軽減されてきました。
シナモンの心が癒されると同時に、外見もまた彼女本来の姿を取り戻しつつありました。

シナモンが固い殻を破り再び歩み始めて1か月後。
私はいつものように彼女の横に座り、挨拶代わりの『愛してるわ』のキスをします。

私は毎日のようにシナモンに会いに行き、そんな私をシナモンは部屋の入り口で待ち構えています。
最近のシナモンはとてもおしゃべりになりました。
ケイティや私に向かってよく話しかけてきます。
シナモンは自分の部屋から出るようになり、ケイティの家の中でお気に入りの場所を見つけてはお昼寝をするようになりました。

ケイティの献身的なお世話がシナモンの凍り付いた心をゆっくりと溶かしてくれました。
シナモンは今、辛い過去を振り返ることを止め、再び前を見詰めて力強く歩み始めています。
自分に注がれる温かいまなざしを受け入れることも、感謝を伝えることにも躊躇しなくなりました。
シナモンがケイティの家で一番のお気に入りの場所は、スポットライトが当たっているような陽だまりの中です。