エレノアはその猫の姿を見たとき、言葉を失うほどのショックを受けたと言っていました。猫は重度の疥癬を患い、顔の皮膚は荒れその目は炎症のために開くことができずにいました。疥癬はダニの寄生が原因で起こり、強い感染力を持ち猫から人間に感染することもあります。

シェルターでは感染を恐れ、スタッフでさえその猫を触れるものはいなかったそうです。その猫は、誰にも触れられることなく暗闇の中で病気に苦しみ、ずっと孤独に過ごしていたのです。エレノアが猫のケージを開くと、猫は見えない目で弱々しく立ち上がって倒れ込み、それでもエレノアに向かって前足を伸ばしてきたそうです。エレノアが抱きしめると小さな声で鳴いたそうです。

エレノアは猫の鳴き声を聞いて、彼が決して諦めてはいないと確信したと言います。彼女は猫を助けることを決心し、シェルターから私が運営する動物保護施設に移そうと電話をかけてきました。電話の向こうに聞こえた猫の鳴き声は、私を決心させるのに十分でした。私はその声にその猫のすべてを聞いた気がしました。

私たちは猫をヴァレンティノと呼ぶことにしました。ヴァレンティノは私たちを見ることができませんでしたが、はじめての病院での治療でこれまでの苦しみがよくなるのかもしれないと感じたようです。完治までは長い時間が必要ですが、ヴァレンティノはようやく回復への第一歩を踏みだすことができたのです。ヴァレンティノはとても人懐っこく、治療にあたった獣医師たちはすっかり彼に心を奪われていました。

バレンティノは獣医師の十分な治療のおかげで、ゆっくりと確実に回復に向かっていました。病気のために失っていた体力は、旺盛な食欲で取り戻しつつありました。しかし、ヴァレンティノにとって一番の薬は周囲からの愛情でした。ずっと彼が待ち望んでいたもの、温かい手と彼に向けられる微笑みが彼の回復を後押ししていたのです。

治療をはじめて約4か月が経過し、ヴァレンティノは見違えるほどの回復ぶりを見せてくれました。ヴァレンティノが本来の姿を取り戻したとき、私たちは新しい家族を探し始める時期が来たと感じました。

6月4日、ヴァレンティノに新しい家族が見つかり、彼は施設を旅立って行きました。ヴァレンティノは、新しい家ではじめての朝を迎えたとき、いつものようにベッドに起こしに行ったそうです。起こされた人間のお父さんはヴァレンティノを自分のお腹に捕まえて、優しく撫でてくれたのだそうです。

シェルターに保護される以前のヴァレンティノを知る人はいませんでした。誰からも触れられることなく過ごしていた彼を、エレノアの抱擁が救いました。獣医師たちの熱心な治療のおかげで、再び明るく夢に満ちた人生を歩み始めたヴァレンティノ。ここにくるまで多くの人が彼を支えてくれました。彼が望んでいた通り、ヴァレンティノを救ったのはたくさんの人の愛でした。