スタッブスは1997年4月に生まれ、前の店主が営むナグリー雑貨店の駐車場で見つかった数匹の子猫の中の1匹でした。子猫たちは近所の住人達がそれぞれ引き取り、店主はしっぽの短い子猫を選びました。それがスタッブスでした。

スタッブスが生まれた年の7月。タルキトーナの街にちょっとした騒動が起こりました。タルキトーナはもともと国勢調査の便宜上設けられた地域であり、議員や自治会長はいてもそもそも市長が存在しない町でした。それがこの街の市長を決めようということになったのですが、その候補者に大半の住人が納得いかなかったのです。

すると、誰が言い出したのか分かりませんが、市長候補になんとスタッブスの名前が挙がっていたのです。スタッブスを擁立した住人たちは始めは面白半分でやったのでしょうが、驚いたことにスタッブスは900票を集め見事に当選してしまったのです。

これでスタッブスは雑貨屋の看板猫とタルキトーナの名誉市長の2足のわらじを履くことになりました。すると、『猫が市長に選ばれた』そんな噂が瞬く間に広がり、タルキトーナの町にスタッブスに会うための観光客がたくさん訪れるようになったのです。

あれよあれよという間にスタッブスの人気は高まり、中にはスタッブスに会うためだけにアラスカを訪れる人がいるほど有名になっていました。一日平均30~40人の観光客が訪れ、淋しくなっていたアラスカの片田舎の町タルキトーナは人気の観光地になっていったのです。

訪れる観光客の殆どが『どこに行けば市長に会えるの?』そう住人たちに尋ねました。スタッブスは観光客とふれあい、町のイベントに名誉市長として参加していました。雑貨店の店主は、ごく普通の猫を家族に迎えたつもりでしたが、スタッブスは名誉市長の重責を見事に勤め町に活気を取り戻してくれていました。

2015年、ナグリー雑貨店の店主は店を私に譲ることにしました。私が交わした契約書には『スタッブスを店の看板猫として飼うこと』という項目が記されていました。もちろん私は大歓迎でした。スタッブスは相変わらず名誉市長としての多忙な日々を送っていました。

2017年7月21日。その数日前にもスタッブスはTV番組の取材といくつかのインタビューの仕事をこなしていました。一緒に暮らしす猫のオーロラと一緒にやすんだスタッブスでしたが、21日の朝、彼はすでに旅立っていました。20歳と3ヶ月そのうちの20年間をこの町の市長として生きたスタッブス、大往生でした。彼は、市長の仕事と彼らしい冒険を愛してしました。犬に襲われ大けがを負い入院したこともありました。トラックの荷台で市外まで遠出をして、町中が大騒ぎになったこともありました。でも、彼は一生を通じてタルキトーナの住民に愛され、彼もまたタルキトーナの町とここに住む住民を愛してくれていました。