茂みから現れた子猫は、階段に腰かけた私の膝に摺り寄ってきました。そのときの私は、何度も頭をよぎった死を真剣に考えていたのです。私に甘えてくる子猫は、私に愛情を求めてきたのです。私は、こみ上げる感情を抑えきれなくなって涙があふれました。

その時以来、子猫は毎日のように現れて私と過ごしてくれました。私は小猫に会うのが楽しみになり、彼をスカウトと呼ぶようになりました。スカウトと会うたびに、私の心は柔らかく、温かく、少しづつほぐれていくような気がしました。そのお礼に私はスカウトにご飯をごちそうしていました。ところがある日、スカウトは突然姿を見せなくなりました。何日も彼を待ち続けましたが、スカウトはあらわれませんでした。

数か月後、落ち込んでいる私を励まそうと、ガールフレンドのベッキーが動物保護団体の譲渡会に誘ってくれました。あるケージの前を通りかかったときです。私の腕を誰かがつつきました。ふと見ると、ケージの中から猫の手が伸びて、私の左腕を何度もつついているのです。『まさか・・・』ケージの猫をよく見ると、見覚えのある白黒の猫、なんとスカウトだったのです。私はスカウトを抱きしめました。

はじめて会ったときも、再び出会ったときも、スカウトは私に多くのことを教えてくれました。私は決して一人ではないということ。気付かない間にたくさんの人に支えられているのだということ。彼はもう一度、それを伝えに帰って来てくれたのかもしれません。私は、スカウトとの再会のきっかけをくれたベッキーと結婚しました。

ベッキーが連れてきた3匹と私のスカウトはとてもうまくいきました。私は、長い間一人きりだと思い込んでいましたが、こうして一気に賑やかな家族に囲まれることになったのです。

その後私は、大学に戻り臨床リハビリテーションの修士とメンタルヘルスカウンセラーの資格を取得しました。何かの理由で傷ついた人たちをサポートする仕事がしたいと思ったからです。私の進むべき道を知るきっかけを作ってくれたのはスカウトでした。

温かく賑やかな家族、やりがいのある仕事、毎日のように死を考えていたあの頃の経験が今の私を作ってくれた、そう考えられるようになっていました。しかし。それからしばらくして、スカウトが白血病を患っていることが分かりました。スカウトは闘病の末、最後は病院へ向かう車の中、私の腕の中で息を引き取っていきました。

あの雨の夜、スカウトは私の心が深く傷ついていたことも、何もかも分かっていたのかもしれません。甘えてきたのでは『どうしたの?だいじょうぶだよ。』そう言っていたのかもしれません。スカウトは、私と一緒に暮らす前から私の人生を救ってくれました。『こっちに来て。新しい道があるよ!』違う人生へ私を導いてくれたのです。私は、彼のおかげで、視線を上げることができました。自分が何をすればいいのか、はっきりと知ることができたはスカウトのおかげなのです。